北の空から~アトピー湯治留学 豊富温泉へ移住

アトピーの息子と北海道の北の端の豊富温泉に湯治留学するまでの出来事とそこでの日々を綴ります。

北海道胆振東部地震③

 湯治で来ている方達にあちこちで会いましたが、

皆口々に、温泉のことを心配している。

折角はるか遠くまで湯治に来たのに、このまま暫く電気が復旧しなければ、

温泉に入れない。折角治りかけたのにまた悪化してしまうのでは?

 

 何より息子が、朝から温泉に入れてないことを気にして焦っている。

どうしよう・・・。

 取り敢えず温泉街の様子を見るために戻ると、息子が温泉閣の女将さんに

話をした。

「折角湯治のために遠く東京から来たのに・・・

あと10日で一旦帰らなくてはならないのに・・・。

温泉にこのまま入れなかったらどうしよう?」

すると女将さんは、暫く考えてから、

「お湯が微温くても良いなら、入っていいよ。」

と、おっしゃってくださった!

「ええ!本当に?」

息子は文字通り飛び上がって喜ぶと、湯の花荘に向かって駆け出した。

タオルを取りに。皆に知らせに。

もう少しで日が傾いてしまう。

そしたら真っ暗で、温泉には入れなくなってしまう。

 

少し薄暗くなりかけた湯船に、息子と入った。

「女将さんが良い人で良かったね。

通りあえず、今日は助かったね・・・。」

と、言いながら。

 

夜、もう一度定住支援センターへ戻り、炊き出しのおにぎりを

頂き、スマホを充電し、また湯の花荘に戻った。

部屋にロウソクを灯し、息子を寝かせつけ、長い一日が終わった。

停電はいつまで続くのだろう・・・。

明日からどうなってしまうんだろう?

 

寝付かれずに、何となく外へ出てみた。

ほんの一筋の明かりもない真っ暗な闇の中、

ふと空を見上げて息を飲んだ・・・。

 

満天の星空・・・。

天然のプラネタリウム

無数の星が瞬いていた・・・。

 

地上は、こんなに深い闇に包まれているというのに。

静かに空を見上げていると、

地球は確かに宇宙の一部なのだと、

自分は果てしない宇宙の一部なのだと、

生まれてはじめて体感した。

 

北海道全域から、全ての明かりが消えた日に、

どれだけ沢山の人達が、

あの、恐ろしいほど美しい星空を見上げて

息を飲んだことだろう・・・。

 

私達は夜でも明るさを失わない便利な生活を手に入れた代わりに、

こんなにも美しいもの達を、手放しながら生きてきたのだ。

 

この美しい星空は、いつでも私達の頭上に広がっていたのだ。

ただ、見えなかっただけ・・・。

それが分かっていても、電気が復旧すれば、

私達は迷わず、便利さを選ぶでしょう。

 

けれど、私はあの先が見えない混乱の後で

思わず出会った宝物のような星空の事を、一生忘れないと思うのです。