豊富温泉初日③
その頃の次男は顔も体もガサガサで、痒くない場所が無い・・・という状態。
体中ひっかき傷で赤黒くなり、皮膚も固く変質していた。
豊富温泉のお湯には入れたものの、すぐにぐったりしてしまい、長くは入れず・・・。
ベンチで休んでいると、何人かの人達が声をかけてくれた。
「辛いよね・・・。私もそうだった。」
「だけど大丈夫だよ。最初は一時悪化するかも知れないけど、暫くすればだいぶ良くなるから・・・。」
「うちの娘もそうだったけど、ここに通って良くなったのさ。」
口々に励ましてくれる。
札幌から時々訪れるという人。遠く横浜や広島からやって来たという人。
はじめて来たという人もいたが、ほとんどの人はリピーターで自分と温泉との
付き合い方を心得ているという印象だった。
それぞれの対処法をアドバイスしてくれる。
「だけどね、これは私の場合で、人それぞれだから・・・。」
温泉で治る人、治らない人。比較的早く効果が出る人、時間がかかる人。
長く居られる人、短期の休暇しか取れなかった人。
比較的状態が悪くなる前に来られた人、悪化してしまい体力も失っている人。
ステロイドを長く使っていた人、そうでなかった人。
自分にあった方法が、必ずしも他人にも合うとは限らないことを知っていて、
決して無理強いしない人が多いと感じて安心した。
皆、ここに来るまでには、相当苦労したのだ・・・と感じた。
何も悪いことをした訳でもないのに、他の人が味わわない苦しみを味わい、
偏見にも晒され、諦めなくてはならなかった沢山の事があったろう。
どうして自分だけ・・・?
次男は辛い最中、「死にたい・・・・。」と泣いた。
小学生なのに・・・。
次男を抱きしめて、一緒に泣いたことを思う。
苦しんだ分、人生が理不尽だと知っている分、人の傷みが分かる人達なのだと
思う。
その夜、少しでも痒みが収まって欲しいという願いも虚しく、次男の状態は
悪化した・・・。
痒がってなかなか寝付かれないのはいつもの事。
夜中に目を覚まして泣くのもいつもの事。
しかし、いつもにもまして激しくのたうちまわり、狂ったように泣き叫んだ。
それは、明け方彼がぐったりして力尽きるまで続いた。
本当に良くなるのだろうか?
むしろ明らかに悪化している。
このまま湯治を続けて大丈夫なのだろうか?
次男を抱きしめながら、呆然と朝を迎えた。